Genmai雑記帳

・・・人にやさしく

最高裁:財産分与の課税上の錯誤に係る動機が意思表示の内容とされた事例

昭和63(オ)385 建物所有権移転登記抹消登記手続請求事件
平成元年9月14日 最一小判
裁判要旨

 ~夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合に~契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が~これを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど~事実関係の下においては~特段の事情がない限り~右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべき~

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan・・・・全文
(以下、抽出・加工あり。原文参照)
  

~上告人は~本件不動産~全部を財産分与として被上告人に譲渡する旨約し~離婚協議書+離婚届に署名捺印~
~被上告人は~財産分与を原因とする所有権移転登記を経由~
 
~財産分与契約の際、上告人は~分与を受ける被上告人に課税~を心配し~気遣う発言~、上告人に課税されることは話題にならなかったところ、離婚後、上告人が自己に課税されることを~知り~額が二億~余円であることが判明~

 ~上告人は~財産分与契約の際~自己に譲渡所得税が課されないことを合意の動機として表示したものであり、2億円を超える課税~知っていたならば右意思表示はしなかった~右契約は要素の錯誤により無効である旨主張~建物につき所有権移転登記の抹消登記手続を求め~
~被上告人~これを争い、仮に要素の錯誤があったとしても、上告人の職業、経験~契約後の経緯等からすれば重大な過失~主張~

原審

1~財産分与~不動産の譲渡が譲渡所得税の対象となることは判例上確定した解釈~
~知らなかったため~課税につき~配慮をせず~負担についての条項を設けなかったからといって、かかる法律上当然の負担を予期し得なかったことを理由に要素の錯誤を肯定することは相当でない。
 
2~右課税の点~は~動機に錯誤~にすぎず~当事者間において全く話題にもならなかったのであって~課税のないことが契約成立の前提とされ~合意の動機として表示したものとはいえない~

最高裁

 ~動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには~動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する~、右動機が黙示的に表示されているときであっても~法律行為の内容となることを妨げるものではない

 ~上告人は~財産分与を受ける被上告人に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり~被上告人も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。~上告人において~課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたもの~

そして~課税も極めて高額~、~前示の錯誤がなければ~財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にある~
~上告人に課税されることが~話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。

~原判決は破棄~。~要素の錯誤の成否~重大な過失の有無等について更に審理を尽くさせる必要~原審に差し戻す~