Genmai雑記帳

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最高裁:相続分譲渡と特別受益

平成29(受)1735 遺留分減殺請求事件
平成30年10月19日 最二小判
裁判要旨

  共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡~相続分に含まれる積極財産+消極財産の価額等を考慮して~相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,~譲渡をした者の相続において~903条〈特別受益〉~「贈与」に当たる。

裁判例結果詳細・・・・全文
(抽出・加工あり。原文参照)
 

(1) 亡Aは亡Bの妻~,上告人,被上告人~は~子~。~。
(2) 亡Bは,平成20年~死亡~。~。
(3) 亡A~は~遺産分割調停~において,遺産分割が未了の間に,被上告人に~相続分を譲渡~手続から脱退~。
 
(4) 亡Aは,平成22年~全財産を被上告人に相続させる旨の公正証書遺言~。
(5) 亡Bの遺産につき~遺産分割調停が成立~。

(6) 亡Aは,平成26年~死亡~。~。
(7) 亡Aは~約35万円の預金~を有し~約36万円の未払介護施設利用料債務を負っていた。
(8) 上告人は,平成26年~被上告人に対し,亡Aの相続に関して遺留分減殺請求権を行使~意思表示~。


原審

 相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は,遺産分割が終了するまでの暫定的なもの~最終的に遺産分割が確定すれば,その遡及効によって,相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになる~譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない。
 また,相続分の譲渡は必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず~経済的利益があるか否かは~積極財産+消極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しない~
したがって~遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与には当たらない。

 
最高裁

共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転~相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずる~。

~相続分の譲渡を受けた共同相続人は,従前から有していた相続分と~譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり,~遺産分割手続等において,他の共同相続人に対し,従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。

このように,相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産+消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる。

遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる~とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。

~共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産+消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き~譲渡をした者の相続において~903条①~「贈与」に当たる。

遺産分割調停においては、相続分の取得を欲しない相続人が、
1.特定の相続人に遺産を取得させたいと言う気持ちもない場合は、煩わしい調停手続から脱退することを目的として、相続分放棄を行い、
2.他の特定の相続人甲に取得させたい場合には、
(1)遺産分割協議の当事者として調停手続に関与を続け、甲に取得させる内容で合意するようにすれば良いのだけれど、
(2)何も、そうしなくとも、甲に相続分を譲渡すれば、自分は煩わしい調停手続から脱退できるし、更に、言わば、遺産分割における協議自体を甲に任せることができるので、相続分を譲渡する、と言うようなことが多いように感じています。

 本件においても、Aは、何も、相続分の譲渡をしなくても、被上告人に賛成する形で、調停手続に残留しても良かったわけで、単に、調停進行の簡便化のために相続分を譲渡した可能性があると思われます。
 その後、被上告人に全部を相続させる遺言をしていることからも、わざわざ相続分譲渡の方法をとって、自己の自由財産の範囲を狭めるような意思はなかったはずだと思うと、結果的に当事者の意思とは異なった結果を導いてしまっているように思えます。

 ・・・・相続分の譲渡は、実質的に、財産上の利益の譲渡とみるべきだ(ほとんどの場合そうなる。)と言う理屈はわかりますが、それを言うなら、遺産分割協議においても、結果的に自己の権利を譲渡するような形になることは少ないないわけで、一般人の感覚から言えば、相続分譲渡も遺産分割も似たようなものと思うと、やはり原審に寄った方が、多くの感覚にマッチするように思えます。

 また、今後、この判決を意識するならば、遺産分割調停においては、軽々に相続分譲渡を選択せず、 「Aの意見に従います」などと言いながら、手続に残留した方が良いと言うことになり、裁判所側としても、事前の意見聴取や書類送付において、工夫する必要が出てくるように思います。