Genmai雑記帳

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最高裁(新):石綿粉じん訴訟、工作物所有者の責任における瑕疵

平成22(受)1163 損害賠償請求,民訴法260条2項の申立て事件
平成25年07月12日 最二小判
裁判要旨

原審が,壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになった時点を明らかにしないまま,同建物の設置又は保存の瑕疵の有無について判断したことに審理不尽の違法があるとされた事例

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(抽出・加工あり。原文参照)
原審

民法717条1項は〜通常有すべき安全性を欠くことをもって瑕疵としている〜通常有すべき安全性とは,瑕疵判断の基準時に社会通念上要求される工作物の安全性をいい,客観的に定められるべきもの〜。
−〜基準時に社会通念上許容されない危険性が客観的に存在すれば,予見可能性・回避可能性がない場合でも瑕疵があると判断すべき〜,占有者のみが予見可能性・回避可能性を欠くことを踏まえた主張立証により責任を免れ得るにすぎない。
−所有者については,究極的な賠償責任を無過失で負担させることが著しく不合理とはいい難い。

〜クロシドライト〜が露出〜,〜高架下にあって振動で〜吹付け材が飛散しやすい状態にあった〜,平成7年以降クロシドライトの製造及び使用が禁止されたことや,平成17年以降〜事業者は〜労働者が就業する建築物の吹付け石綿の粉じんにばく露するおそれがあるときは〜除去等の措置を講じなければならないとされていることなどに照らせば〜露出していたことは〜設置又は保存の瑕疵に当たる。

最高裁

〜通常有すべき安全性を欠いていることをいう〜ところ,〜石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見及び一般人の認識〜法令上の規制の在り方を含む行政的な対応等は時と共に変化していることに鑑みると,〜所有者として民法717条1項ただし書の規定に基づく土地工作物責任を負うか否かは,
−人がその中で勤務する本件建物のような建築物の壁面に吹付け石綿が露出していることをもって,当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを証拠に基づいて確定した上で,
−更にその時点以降にAが〜粉じんにばく露したこととAの悪性胸膜中皮腫の発症との間に相当因果関係を認めることができるか否かなどを審理して初めて判断をすることができる〜。

原判決は〜石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する指摘等がされるようになった過程について第1審判決を引用して説示するだけで〜通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを明らかにしないまま,Aが〜勤務していた昭和45年3月以降の時期における〜設置又は保存の瑕疵の有無について,平成7年に一部改正された政令及び平成17年に制定された省令の規定による規制措置の導入をも根拠にして直ちに判断をしている〜
〜上記のような観点からの審理が尽くされていない。〜
〜差し戻す〜

民法

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。(以下省略)

 所有者の責任は無過失責任。しかし工作物に瑕疵がなければ責任はない。
「主観的な故意・過失を瑕疵と言う客観的な事実で代置したとみることも可能〜。完全な意味での無過失責任〜ではなく瑕疵の存在による客観的責任」「近時、瑕疵を義務違反としてとらえ、〜責任の有無を決するのは損害発生の回避可能性にあり〜防止措置の不実施を義務違反とみて瑕疵をとらえる考え方が有力に主張」(以上日評コンメ4版)
 有力説そのままではないかもしれませんが、結果的に、回避可能性をもちこんでの判断と言うふうに思えます。